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東京高等裁判所 昭和46年(う)3547号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

理由

〈前略〉

職権による破棄理由

道路交通法六四条、一一八条一項一号のいわゆる無免許運転の罪においては、運転行為のみならず、運転免許を受けていなかつたという事実についても、被告人の自白のほかに、補強証拠の存在することを要するものと解するのが相当である(最判昭和四二年一二月二一日刑集二一巻一〇号一四七七頁)。本件についてみると、原判決の「罪となるべき事実」は、被告人は公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四六年三月二〇日午前三時三五分ころ、東京都葛飾区東金町七丁目三七番地付近道路において、普通乗用自動車を運転したものであるというのであり、証拠の標目としては、一、被告人の当公判廷における供述、一、被告人の検察官および司法警察員に対する各供述調書、一、現行犯人逮捕手続書、一、運転免許の有無に関する照会結果書がかかげられている。右現行犯人逮捕手続書によれば、原判示日時場所において警察官が交通取締中被告人が自動車を運転していたのを停止させ、被告人に運転免許証の提示を求めたところ、被告人は運転免許証を提示せず、またポケットなどを探す素振りも示さず、「すみません十一年前までは持つていたのですが、現在は有りません、無免許です」と申し述べたので、無線自動車から無線で、亀有警察署宿直員を通じて警視庁免許本部に対し照会を依頼したところ、該当なしとの回答をえたので、被告人を無免許運転罪の現行犯人として逮捕したこと、被告人はその際佐川裕二と偽名を使つていたことが認められる。しかし、前記運転免許の有無に関する照会結果書をみると、違反者の氏名欄が空白であり、免許台帳を調査したが、上記の者は発見できなかつたという記載があり、前掲現行犯人逮捕手続書と照合すれば違反者名は佐川裕二と推認できるが、被告人が免許を持つていたか否かは不明である。そして、原判決のかかげる被告人の原審公判廷における供述、被告人の検察官および司法警察員に対する各供述調書によれば、被告人が原判示日時場所において無免許運転をしたことを自白していることが明らかである。従つて、本件運転行為については、補強証拠として現行犯人逮捕手続書が存在し、また、これによつて、その際被告人が免許証を持つていなかつたという点についても、補強証拠が存在するものといえる。しかし、免許証を持つていなかつたというだけでは、免許証不携帯罪(道交法九五条一項、一二一条一項一〇号)との区別がつかないこととなるので、これだけでは運転免許を受けていなかつたという点についての補強証拠としては十分でないといわなければならない。要するに、原審は、無免許の点について、被告人の自白のほかに、補強証拠がないのに有罪の判決をしたものであり、原審の訴訟手続に刑訴法三一九条二項違反があつて、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである。控訴趣意につき判断するまでもなく、原判決は前記の点において破棄を免れない。

よつて、刑訴法三九七条一項三七九条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従い、さらに自判する。

罪となるべき事実は、原判決摘示のとおりであるから、これを引用する。〈以下略〉

(高橋幹男 寺内冬樹 中島卓児)

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